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| 第 3 話 車のフロント・グラスを激しく雨がたたいている。ワイパーもキュッキュッ、キュッキュッとせわしく目の前で動いている。高まる胸の鼓動を抑えながら、スピードにも気をつけロングアイランドのIslipに向かう。コネクォート州立公園の入り口はちょっとわかりにくいところにあった。ロングアイランドの南を東西に走っているサンライズ・ハイウェイというのがある。NJの方から行くので当然サンライズ・ハイウェイを東に向かって走るのだが、入園入り口はウェスト・バウンドのハイウェイにあるのだ。ということは、入り口を左に横目に見ながら通り過ぎ、いったんハイウェイの出口で降りてサービスロードを走り、ハイウェイの上を横切っているランプでUターンしなければならない。なんとも面倒なことだ。初めてなので地図で確認しながらも多少心に不安だったが、半分は山勘で探りあてた。Uターンしたサービスロードから西行きのハイウェイにいったん入り込み100mほど走ったところにその入園口はあった。小さな小屋のような受付があり、入る道と出る道に挟まれている。中に人がいるので車の窓を開いて、 「ハーイ、グッド・モーニング。」と挨拶すると 州政府のレインジャーの制服を着た男性が同じように挨拶を返した。車の窓から出した顔はピシッ、ピシッと風で横殴りに吹き付けてくる雨にうたれ、皮膚が痛い。雨はまだ止みそうにない。 「今日フライ・フィッシングのアウティングがあるのでここに来たんだけど・・・・」 「えーっと、何とかフィッシング・クラブが予約をしていたかな?」 と記憶をたどるような目つきで天井を見つめ、 「XXフィシング・クラブ。おう、予約がはいっているねぇ。」 「そうだよ。みんなはもう来てるのかな。ちょっと遅れたかもしれないので、みんなもう始めてるかも。ここで、入園料を払えばいいんだよね。エーッと、いくらだったっけ。ほら、州のフィッシング・ライセンスはここにあるよ。はい15ドル。」 すると、レインジャーのおじさんは、 「いや、お前が一番のりだよ。ただし、会長さんから連絡があって、今日は雨風が激しいから中止にしますって言ってたよ。」 「えーっ、中止?!」 一瞬、目の前が真っ白になった。見知らぬ場所で雨風に打たれながら一人さまよう釣り人。初めてフライ・フィッシングが出来るという胸の高鳴りは瞬時に消えうせ、孤独感だけが胸に重くのしかかった。そのまま引き返すにはあまりにも自分に対してひどい仕打ちではないか。子供のころ、期待に期待を重ねて待っていた誕生日ケーキを目の前でテーブルから落とされて食べられなかったときの落胆に似ていた。レインジャーのおじさんは 「ま、せっかく来たんだから。釣りをしていけばいいじゃん。お前のほかには誰もいないんだから、今日は貸切だよ。いつもならちゃんと指定された場所で釣りをしなければいけないんだけど、今日はどこで釣ってもかまわないよ。この公園中ぜ〜んぶお前のものだ。」 と、随分と気前の良いような、なんとなく同情したような口ぶりだ。入園料の15ドルも要らないといってくれた。いやー、これはラッキー・・・なのかどうなのか。 とにかく激励を受けていわれるがままに車で2〜3分奥の方へ車を走らせた。州の公園の事務所と思われる大きな家の前を左に曲がり細い道を時速15マイル程度で走る。回りは茶色なった葉が落ちて、枝だけになった木々で囲まれている。いわれたとおり奥まったところに駐車場があり、そのすぐ前に川が流れていた。当然のことながら、みんなが集うべきこの駐車場はガランとしており、ただ私の車だけが雨のなかでぽつんと孤独に止まっている。狭い車の中で、 さて、現場には来てみたけれどどうしよう。雨具の用意は当然してきているので雨に打たれるのは問題ではない。問題なのは、釣りのやり方がわからないのだ。多少は雑誌とか本で読んでいたので頭の中には理屈としては入っている。そういえば、ラインとリーダーやフックとチペットの結び方などが挿絵いりででていたなぁ。もっと詳しく読んでいるべきだった。幸いラインとリーダーはすでに結んであった。ところがフライとリーダーはどう結ぶのだろうか。いやいや、フライはチペット(Tippet)というのに結ぶとものの本にかいてあったぞ。頭がこんがらがってきた。そのフック(釣り針)とはフライそのもので、フックに鶏やいろいろな動物の毛を巻いて虫らしく見せているのだ。この虫には多分、何千というバリエーションがあってこのことを話し出したら限がないのでこの先すこしづつ折を見て触れて行きたい。チペットにフライを結ぶ・・・。この時点ではどうしてもこのチペットがどんな役割をするものか、リーダーとチペットがどう違うのか理解するのに苦しんだ。チペットとはリーダーの先にさらに結ぶ釣り糸のことだ。これも透明なポリマーというプラスティックで出来ているらしい。普通の釣り糸とあまり変わりはないが、太いのから細いのまでいろいろ合って状況に応じて使い分けるらしい。そしてチペットとリーダーの結び方も特殊なやり方があるらしいのだ。実はそこんところを教えてもらう手はずになっていたのだが・・・・・ えぇ〜い、ままよ。面倒だ。どんな結び方でもほどけなきゃ良いだろう。と言うわけで、車のなかでぐずぐずしていても始まらない。丁度、折りよく雨も小降りになったので、フード付きの防水ジャケットをはおり、車の外に出た。手には、竿、ラインの巻いてあるリール、ポケットにはプラスチックの箱に入った毛むくじゃらのフライ。駐車場の前にある川岸に行ってみると川幅7〜8mの澄み切った流れがあった。川岸にはまだ、今にも落ちて来そうな枯れ葉をつけた枯れ木が雨に打たれている。川は両岸を木立で囲まれていて幸い雨が直接からだに当たることはなかった。すぐ側に小さな橋がかかっており、向こう岸にもいけるようになっている。水面は澄み切っているが暗く、雨のせいか流れが速そうに見える。木立が水面に映り暗い影が漂っていたが、部分的には灰色の雨雲を反射して川底が見えにくい。河岸でじっくりと眼を凝らすと、おう、いるわいるわ。肉眼でもはっきりと見える。トラウトが上流に向かってを出来るだけ流れに抵抗がないような姿勢で魚体を保っている。2匹、3匹。いやもっといる。うようよいる。ひょっとしたら掴み取りのほうが早いんじゃないかと一瞬けしからぬことが頭をよぎった。 さて、リールから2〜3mラインを引き出して、竿の腹に一列に並んでいるガイドに通していく。ガイドはキャスティングするときにラインがスルスルとうまく伸びていくために必要なラインの案内役だ。ラインの通し方も効率的なやり方があるのだがこのときはわからない。ラインを通し終わって、次はいよいよリーダーに直接フライを結ぶ。ティペットは使い方がわからないので使わないことにした。リーダーの先っちょの細い透明な糸を右手の親指と人差し指でつまみ、プラスティックの箱から取り出した橙色の毛むくじゃらのフライを左手で掴む。フライの小さい小さいフック・アイ(釣り針の穴)に通そうとするがうまくいかない。アイが見えないのだ。フライを持った左手を遠くへ伸ばす。すると少しづつアイの輪郭がはっきりしだした。見えなかったのは要するに年のせいだった。フライの結び方はわからないので日ごろロープを結んでいるのと同じ要領で結んだ。結んだ後、2〜3回引っ張ってみて解けそうにないので、これでOK。さぁーて行くぞ。いざ、出陣だ。 |