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| 第 2 話 Willowemoc Creekがプールに入る直前の浅瀬には2・3人のフライフィッシャーマンがせわしく糸(ライン)を上下させ最後に糸を竿からほおり投げるようにプールの中心まで届かせた。 遠くから見ていると黄色いラインがシュルシュルッとU字型に伸びて行き水面に落ちて浮かんだ。実際はその黄色いラインの先に透明な糸が3〜4mついていてその最先端に疑似餌、つまりフライが結び付けてあるのだ。フライも水面に浮き、流れに沿って動いている。 「変な釣りだな。あれで本当につれるのかな。」 と、そのときは感じたものだ。それよりもその格好に違和感を感じた。サファリの時に身に着けるようなポケットがいくつもついたジャケットを着ている。それになにやらいっぱい小道具をつけ、胸まであるような長靴を履いて腰辺りまで水につかっている。 「なんと大げさな。たかが釣りでしょ。」 という思いで、彼らの行動をちらりちらりと横目で見ながら、私は自分の紅白二色のピンポン玉のような浮を眼で追っていた。浮きの下には当然のことながら錘とミミズの付いた糸が水中に垂れ下がっている。私はジーパンにTシャツ。そばには大工道具を入れるようなプラスチックの釣り道具箱。水辺では子供たちが石を積み上げて遊んでいる。そのうちにサファリジャケットのおじさんの竿がググッとしなった。そして数メートル下流の方でバシャバシャッと水しぶきが上がり魚がもがいている。 「おおっ、トラウトがかかったな」 とねたみとあせりの入り混じった気持ちで見ていた。手元に引き寄せ網ですくって、隣の同じような格好をした第2のサファリおじさんとなにやら話していたと思ったら、あれれ、30cmほどもあるトラウトを水に戻してしまった。もったいない、もったいない。今夜のおかずにできるのに。しばらくすると、第二のサファリおじさんも同じサイズの魚を釣り上げ、これもまた川に戻してしまった。こちらときたらさっきから一度も反応が無いのである。その後、数時間の間にサファリグループは大小さまざま次々と釣り上げては逃がした。後で知ることになるのであるが、これを「キャッチ・アンド・リリース」と言って、この釣り特有の哲学であったり、ゲーム性であったり、環境保護の考えで会ったりといろいろとややっこしい理由付けがなされているのである。 「なんで、うまそうなミミズに見向きもせずにうまくもない偽者に食いつくんだろう。いったい魚は何を見てるんだ。」 少しずつ、腹が立ってきた。 それでも数匹のトラウトは確保でき、キャンプ場でおなかをすかして待っている仲間たちに対して何とか面子は保ったものの気持ちが吹っ切れない。その後、キャンプはしないときも自宅から1時間半でいけるこのプールには日曜日ピクニックをかねてよく行ったものだ。そのたびにやはり、川中でサファリ・ジャケットをきて色のついた太いラインを優雅に空中で弧を描かせながら釣りをしているオジサンによく出くわしたものだった。今度は腹が立つよりは、興味のほうが先に発ってきた。機会があれば一度はあの竿を振ってみてもいいかな。だけどちょっと恥ずかしいな。あんな大げさな特大長靴を履くなんて。ほかの人たちから見たらこっけいに見えるんじゃないかな。なんか、特別な人がやる釣りのような感じがした。 ある日、いつものように白い3cmほどのミル・ワーム (これが蛆虫にそっくりなのだ。)を針につけて糸をたらしていると10歳くらいのフライ用の道具を持った男の子がすぐ後ろまできてなにやら話しかけてきた。よく昔の映画に出てくるちょっと太った、丸ぽちゃの腕白小僧だ。春先なのにほっぺは赤く、眼や鼻、口などが広い顔全体の真ん中に集中して収まっている感じだ。片手に黄色い太いラインの先っちょを持ちもう一方の手には透明なナイロンでできていそうな糸をつかんで、両手を私に向かってに差し出している。当然ながらこの子は英語で話しかけているわけだが、日本語だったら多分こんな風に聞こえたんだろう。 「おじちゃん、これとこれを結んで。僕、初めてなのでわかんないんだ。」 今の日本の子供が、このような話し方をするのかどうかは定かではないが、 要するに、フライ・ラインとリーダーの結び方がわからないので結んでくれという頼みだった。フライ・ラインと言うのは例の色のついた太いラインで普通は水面に浮くようにできている。はじめはこんな太い、黄色やオレンジ、緑などのケバケバしい色がついているラインでしかも水面に浮いている状態でどうして魚が釣れようか、と思っていた。ところが実際は、そのラインの先に透明なナイロンらしきものでできた細い糸が付けられていたのだ。遠くからその優雅なラインの軌跡を見ていてもその部分は見えない。太い色のついた部分だけしか見えなかったのだ。その透明な糸の部分をリーダーというらしい。先のほうにあるという意味だろうか。そのリクエストを聞いて、 「よっしゃ、これはな、こうして、こうして、こんな風に結んでこうやって引っ張ってみな。ほうらできただろう。」 ってな風に教えてあげたかったのだが、そのときは 「あー、おじさんねぇ、これできないんだ。ほらあそこにいるおじさんだったらきっとできるよ。」 という返答しかできなかった。自分がちょっと惨めな気持ちになった。こうなったら、ひとつ自分でもやってみるか。というわけでその年の夏、例年のようにキャッツキルにキャンプに言ったついでにフライ・フィッシング・スクールのパンフレットをロスコーの町で手に入れた。パンフレットの内容を読んで見ると3日〜4日で$400〜$500だ。その年は何とか仕事の暇を見つけて夏休みの間入学してみようと思っていた。が、あれやこれやでレイバー・デーも過ぎコロンバス・デーも過ぎ、そろそろ感謝祭にも近くなってきてしまった。今年もやっぱりダメだったか、来年はきっと・・・と志を新たにしていた。ところが、感謝祭を1週間前に控えたある日、仕事上知り合った友達からニューヨークにフライ・フィッシングの会があるらしいという話しを聞き、その会長さんの名前と電話番号を教えてもらったのだ。その会も丁度出来て間もない頃だったらしく、初心者も大歓迎と言うので早速入会させてもらった。 というわけで、長々とフライ・フィッシングを始めた動機を述べさせてもらったが、11月の下旬にしては季節に不釣合いな暖かい雨と強い風の中を多少の不安と大きな期待感の入り混じった気持ちで家を後にした。 1 3 |